津波工学研究室について
本研究室は、
世界で唯一工学的なアプローチで
津波研究を展開している研究室です。
研究内容
災害は、自然現象(外力)と人間社会の営みとの干渉によって発生します。災害の様相も、人間活動の様式の変化に伴い、進化していきます。これからの災害対策は、過去の災害事例に基づいたものだけでなく、社会の発展と変貌する災害過程を予測し、地域の発展と脆弱性に応じたきめ細かなものであるべきです。
津波工学研究室では、工学的な立場から津波を研究する世界で唯一の研究機関です。災害対策・制御の理念を基盤として、 国内外の現地調査研究、高精度津波数値予測システムの開発、地域の津波災害対策支援を主とした研究を行っています。
特に、津波の解析技術は世界の津波被害の予想される国への国際的な技術移転の対象となっており、TIME(Tsunami Inundation Modeling Exchange)プロジェクトはその中核として位置づけられています。本研究室の津波解析コードは、これまで世界7カ国以上に技術移転され、津波災害の軽減に役立っています。
上の絵はTIME Projectのシンボルマークです。
活動目標
津波工学研究室は、以下を活動目標として、研究の実施、学生の研究指導、社会貢献を行っています。
- 津波研究のフロントランナーとしての学術面での先導的役割を担う
- 国内外の津波対策推進に貢献する
- 宮城県沖地震・津波災害の被害軽減に資する研究活動・社会活動を積極的に実施する
- 地域の防災力向上を目指した教育を地域で展開する
最近の研究テーマ
最近の研究テーマを以下に列挙します。
- 2011年東北地方太平洋沖地震津波の被害実態の解明
- 文理融合アプローチによる複合津波災害過程および被害拡大メカニズムの解明
- 次世代型津波予警報システムの基盤構築
- 高精度津波数値解析技術による海岸侵食・回復過程の解明
- 非地震性津波数値解析技術の開発
- 津波避難行動の記録化手法の開発と特性解明
- 災害情報・防災情報・災害伝承が行動変容に及ぼす影響の解明
- 効果的・持続的な防災教育の開発・実践に関する研究
- 東日本大震災における宮城県での犠牲者情報の分析
津波発生メカニズム・被害実態の解明さらに防災・減災へ
津波の発生原因は主に地震です。そのほか、地すべり、火山噴火、気圧変化、隕石落下等でも 発生します。通常の地震津波(地震性津波)は、断層運動により発生した海底の地盤変動の鉛 直成分(隆起・沈下)が、その上方の海水に影響を及ぼし、いわば「生き写し」となって海面 に現れ、それが水の波として伝わるものです。基本的に地震の大きさ(規模)が大きければ、断層の運動量が大きく、津波の高さも大きくなります。津波の伝播速度は水深に依存し、深い 海ほど伝播速度が速く、浅い沿岸部に到達すると伝播速度が遅くなりますが、波高は高くなり ます。わたしたちは、こういった津波の発生プロセスを数値解析モデルとして開発し、過去に 起きた津波の発生メカニズムの解明や、将来起こる可能性のある津波の予測を行っています。さらには、津波の現象やその被害・対応について、分野を超えて文理融合で様々な観点で研究しています。
左の図はわたしたちが解析した 2011 年東北地方太平洋沖地震(M9.0)が起こした巨大津波の CG です。地震発生から約 30 分後に巨大津波が三陸地方に到達し、海岸形状がリアス式であるため、津波の高さが増幅されました。右の図は、国内の他大学との共同研究によるものです。津波モデルに加えて、土砂移動モデルと漂流モデルを統合し、気仙沼市での津波浸水状況を再 現した CGです。三陸地方よりも南側にある宮城県の仙台湾には、地震発生から約 60 分後に津波が到達しました。水深が浅い仙台湾では津波の伝播が遅くなります。仙台平野に到達すると、津波の高さはリアス式海岸ほど増幅されませんでしたが、内陸の方まで広く浸水してしまいました。このような数値解析は、復興に関する多重防御対策や避難計画等にも活用されています。
2011 年東北地方太平洋沖地震津波は,甚大な被害を引き起こしました。これまでの研究で、多くの被害データよって、津波の外力としての特徴や人的・物的な被害の特徴が分かってきました。例えば、犠牲者情報との関係を分析したところ、死因と津波外力または他の要因との関係が明らかになりました。以下の図は犠牲者情報による死因の再分類です。また、現地調査、衛星画像の解析等によって、津波外力と建物、漁船、養殖いかだ、アマモ場等、幅広く被害の特 徴を定量的に評価しました。さらには土砂移動モデルも導入し、環境評価や歴史資料等に記録 された過去津波も研究しています。
非地震性津波についても2018年9月にインドネシアで発生したスラウェシ島津波(横ずれ地震 +地すべり)、同年12月に発生したスンダ海峡津波(火山噴火が起こした山体崩壊)の発生メカニズム及び被害特徴を研究しています。以下の図は2018 年スンダ海峡津波を再現したCGで す。右の図は我々が提案した建物に対して2004年インド洋津波(緑=バンダアチェ、黒=タイ)、2018 年スラウェシ島津波(青)、2018 年スンダ海峡津波(赤)の最大浸水深と被害確率の関係を表す被害関数です。さらに、2022年1月15日に発生したトンガでの火山噴火によって引き起こされた津波は、周辺地域だけでなく遠く離れた日本や米国西海岸、さらにはカリブ海や地中海にも及びました。この津波は空振という衝撃波によって引き起こされたと考えられ、そのメカニズムも今後検討していなければなりません。
津波からの避難行動の実態や影響する要因を明らかにするために,被災した現地におもむいて,詳細な聞き取り調査や大規模な質問紙調査を実施しています。これらの調査研究は,住民や地域の避難行動プロセスを解明するだけではありません。その結果にもとづいて,自治体の津波避難計画の内容を決定する重要な情報になったり(例:宮城県亘理町津波避難計画など),そこに見える事実・教訓を伝える展示に活用されたりしています(例:気仙沼市 東日本大震災遺構・伝承館,みやぎ東日本大震災津波伝承館など)。災害を乗り越える社会づくりに貢献するために,東日本大震災をはじめ,様々な災害について,その経験や教訓を広く社会に共有する「防災教育と災害伝承」をテーマにした研究・実践を,自治体,学校,NPO と連携して実施しています。
論文タイトル
卒業論文タイトル
(2022年度)
- 時短型震災語り部プログラムの効果検証に関する実験的研究(若木望)
(2021年度)
- 異なる時間帯に発生した津波避難行動特性の違い―2016年福島県沖地震と2021年宮城県沖地震の事例比較(藤田崇宏)
- 仙台新港における設備被害・生産停止を考慮した工業団地の津波リスク評価(西田知生)
- 東日本大震災の復興支援調査アーカイブにみられる危険方向への移動者の特性(成田峻之輔)
- 瓦礫から発見された犠牲者に関する研究-気仙沼市及び名取市での建物被害・浸水深との関係(信田晃成)
(2020年度)
- ミリング行動に着目した避難行動家庭の分析:名取市閖上地区の事例(川合将矢)
- スンダ海峡における地震性・非地震性津波の特性と非難対応(千葉愛理)
- 海面上昇が津波経済リスクに与える影響評価ー産業連関表を用いた推定法ー(藤皓介)
(2019年度)
- 東日本大震災における犠牲者情報を用いた人的被害に関する研究~遺体発見場所に基づく宮城県自治体を対象とした死因の傾向分析~(鎌田紘一)
- 高知県における津波碑の建立の意義および位置に関する実態分析(田畑佳祐)
- 東日本大震災の教訓浸透度評価の試み ー東北大学MOOC受講者を対象にしてー(渡邉勇)
- 土砂移動モデルを用いた遠地・近地津波による地形変化-米国ワシントン州ディスカバリー湾の事例(渡邊凌生)
(2018年度)
- 仙台市震災復興メモリアル施設の整備状況と来館者による利用評価(門倉七海)
- 東日本大震災発生時でのハザードマップの整備状況とリスク認知(芹川智紀)
- タイ・プラトーン島を対象とした2004年インド洋大津波による土砂移動の実態とその解析(柾谷亮太)
修士論文タイトル
(2021年度)
- 東日本大震災の震災伝承施設の利用実態と行動変容に対する効果(渡邉勇)
- 静岡県浜松市における津波土砂移動の特徴と生態系へ与える影響(渡邊凌生)
- 洪水を対象としたマイ・タイムライン作成による効果と課題(田畑佳祐)
- 津波災害における低体温症および損傷死犠牲者を対象とした分析 -東日本大震災での宮城県の事例-(鎌田紘一)
- Analysis of Evacuation Process Focusing on Proactive Behavior and Information Surrounding Residents: Highlighting "Zero Casualty" Goals(Jehan Fe Panti)
- A database of tsunami hazards: an assessment of major ports in Taiwan(An Chi Cheng)
(2020年度)
- 水害から50年経過した被災地での記憶や備えに及ぼす影響要因(門倉七海)
- 東日本大震災における犠牲者情報の分析- 宮城県石巻市を対象とした事例 -(芹川智紀)
- 巨大津波特性と津波堆積物の土砂供給源に関する数値的検討(柾谷亮太)
(2019年度)
- 東日本大震災発生時の状況変化を考慮した津波避難意思決定及び行動-気仙沼市階上地区での事例研究-(新家杏奈)
- 遺伝的アルゴリズムを用いた沖合津波観測点の最適配置探索手法(倉本和俊)
(2018年度)
- 港湾ネットワークを考慮したグローバル津波リスクの検討(大竹拓郎)
- 東日本大震災で浸水したエリアにおける居住者・来訪者を対象とした津波避難対策の実態把握に関する研究(馬場亮太)
博士論文タイトル
(2019年度)
- 津波襲来時における大規模避難プロセスのモデリングとシミュレーション(牧野嶋文泰)
(2017年度)
- 巨大津波の波源推定への円錐型断層モデルと土砂移動モデルの適用性評価(久松明史)
(2015年度)
- 狭域および広域における建築物の直接被害を対象とした津波リスクの定量評価手法の提案(福谷陽)