研究計画(平成22年度)

災害史の再検討と当時の環境・地形の再現

歴史史料調査 【都司】

貞観津波に関する「日本三代実録」(平安末期),明和津波に関する「球陽」などの歴史書の津波に関する記述を原典に戻って再整理し,被害実態,遡上域,遡上高などを推定する. また,史料中に海岸線の位置などの当時の環境や地形の変化に関する情報が含まれていないか精査する.

貞観津波 【松本・今村】

貞観津波が発生した当時の地盤高や海水準,汀線位置は現在とは異なる可能性が高い. 貞観の津波堆積物基底面には浸食面が顕著でなく,津波発生時の地盤高とみなせる(図5). そこで,本年度は仙台平野を中心として津波堆積物とその直上の火山灰(十和田a(A.D. 915年))層の分布を面的に調べ,従来の10倍程度のデータ密度を想定した高解像度の地盤データを得る. 一方,浜堤地形の有無や当時の汀線推定を地形学的・古海洋学的調査により推定する.

貞観津波
図5:津波堆積物分布および地形復元のイメージ.

明和津波 【後藤】

明和津波は比較的最近(240年前)のイベントであり,海水準は現在と同じとみなせるが,地震に伴う地盤隆起・沈降の可能性がある. 本研究では,マングローブ林の樹種分布が潮間帯の変動に極めて敏感なことに着目し,石垣島,西表島などのマングローブ林を対象に掘削調査を複数地点で行い,年代測定および樹種の時系列・空間変化に基づき,過去数千年間の地盤隆起・沈降の履歴を数十年オーダーで復元する.

ハザード評価

貞観津波 【松本・今村】

津波堆積物の調査を,仙台平野を対象としてハンディジオスライサー(簡易掘削機)を用いて行う. 津波堆積物の認定には,年代測定,古生物学的分析(海生生物遺骸の有無),堆積構造などから総合的に行う. そして,津波堆積物中の堆積構造から,津波の来襲回数,最大流速,継続時間などの水理量を推定する. また,津波堆積物の分布限界から最小浸水域を推定するだけでなく,津波堆積物と下位層との境界面の状態(浸食の有無など)から,最低底面せん断力を推定する.

明和津波 【後藤】

津波により打ち上げられた可能性のある巨礫群(図6)は,宮古−八重山諸島のリーフ上に広く分布しており,その分布域はまだ十分把握されていない. そこで,石垣島,多良間島,宮古島などを中心に巨礫群(サンゴ岩塊)の全体的な把握を行う. そして,申請者らの既往研究により明らかとなっている津波石の水理・堆積学的識別基準を適用し,台風起源の巨礫と識別し,津波石の認定を行う. さらに,14C年代測定を行うことで,1771年明和津波起源であるか調べる.

明和津波
図6:石垣島・宮良湾に分布する津波石.

被害推定

貞観津波・明和津波 【越村・高橋】

2004年インド洋大津波で作成した被害関数の推定精度を上げ,浸水深だけでなく流速や流体力を説明変数とした拡張を目指す. さらに複合災害や沿岸地形,環境への影響,回復過程についての基礎データの収集をする.

平成23年度以降の研究計画

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