研究計画(平成23年度以降)

災害史の再検討と当時の環境・地形の再現

歴史史料調査 【都司】

平成22 年度に引き続き,複数の歴史史料から被害実態,遡上域,遡上高などを推定する. 大災害からの復興状況の情報を整理し,ヒステリシス作図での変数を確定する.

貞観津波 【松本・今村】

東北地方太平洋側の広域に渡り被害を及ぼした津波の波源推定を行うためには,仙台平野のみの詳細な調査では不十分である. 現在までに,北は宮城県石巻市まで,南は福島県浪江町までは貞観の津波堆積物が報告されているが,津波堆積物の分布限界の詳細な検討はまだ行われていない. そこで,平成23〜25 年度にかけて,津波堆積物の調査を宮城・岩手・福島・茨城県沿岸域で行い,貞観津波の影響が及んだ北限,南限を推定する. そして,津波堆積物基底面から推定される当時の地盤高の情報に加え,地形学的,地震学的な既往研究結果を踏まえて,浜堤地形の有無や当時の汀線推定,さらには地盤の隆起や沈降量の復元を行い,当時の地形の復元を試みる.

明和津波 【後藤】

平成22 年度に引き続き,石垣島,西表島などのマングローブ林を対象に,過去数千年間の地盤隆起・沈降の履歴を数十年オーダーで復元する.

ハザード評価

貞観津波 【松本・今村】

歴史史料調査で述べた地域の津波堆積物の認定を,年代測定,古生物学的分析,堆積構造などから総合的に行う. さらに,平成22 年度に実施する手法を用いて,各調査地点での津波水理量に関する情報の抽出を行う. 次に,本研究で推定した津波当時の地形データを用いて津波遡上計算を実施し,堆積学的研究により明らかとなった最低浸水域,最低底面せん断力などの条件を満足する波源の大局的な推定を行う. そして,推定された波源を用いて津波土砂移動計算を実施し,波源の精緻な精度向上を行う.

明和津波 【後藤】

前年度に引き続き,宮古−八重山諸島において津波石の分布調査を行う. 我々が開発した津波石移動モデルを本研究で認定した津波石に適用し,現在の津波石のサイズ・空間分布を満足するよう,既往の波源モデルの修正を行う. 一方,巨礫群は石垣島西海岸など津波被害が少なかった地域に分布していないという特徴がある(図2). これは,津波外力が小さく,巨礫を運び得なかったためと考えられる. しかし,こうした沿岸部でも津波犠牲者があることを考慮すると,重量の軽い砂が陸上に運搬され,津波堆積物として堆積している可能性がある. そこで,津波石が存在しない地域は,ハンディジオスライサーを用いて陸上で掘削調査を行い,津波堆積物の有無を調べる. そして,年代測定,古生物学的分析,堆積構造などから津波堆積物を認定し,最低浸水域を推定する. 歴史史料,津波石,津波堆積物から得られる情報を制約条件とし,津波波源の特定を行う.

複合災害推定(環境への影響)と回復力の評価

歴史史料調査【都司・今村】

歴史史料には,津波後の復旧・復興過程や環境修復過程が詳細に記されていることがあり,本研究で対象とする津波後のヒステリシスの状態変化を定量的に検討できる可能性がある. そこで,貞観津波,明和津波に関する記述を津波後数日,数ヶ月,数年,数十年のスパンで抽出し,歴史史料から津波後の社会・環境の回復過程を評価する. そして,津波前の状態と比較し,どのような変化が生じたのかを明らかにする.

貞観津波【松本】

津波後に,津波によるインパクトだけでなく,常時波浪の波向きなどが大きく変化し,人間社会の基盤をなす地形・環境に大きな影響を及ぼした可能性が考えられる. そこで,貞観津波を対象に,堆積物中に残留している海水由来の化学成分を分析し,植生に対する海水の影響を明らかにする. また,津波堆積物より上位層準(かつ火山灰層以下)に着目し,植生の変化により堆積環境に変化が生じ,その後の地形形成に影響を与えた可能性についても調査を実施する.

明和津波【後藤】

明和津波の被災域は世界でも有数のサンゴ群生域である. 2004 年インド洋大津波後にも被害が報告されており,我々の予察的研究では,津波流速が約5m/s を上回ると,サンゴ群体に大きな被害を及ぼすことが明らかになりつつある. こうした知見を適用し,津波直後にサンゴ礁生態系にどのような被害が発生した可能性があるのかを推定する. そして,甚大に被害が出た可能性のあるサンゴ礁地域において掘削調査を行い,1771 年に大量破壊された痕跡の有無とその後の回復プロセスを,堆積学的・地球化学的に解明する. その結果に基づき,津波後の住民生活にサンゴ礁被害がどのような影響を及ぼしたのかを,史実と比較しながら明らかにする.

総合被害推定・回復過程

ハザード評価で得られたミレニアム津波ハザード情報を変数として,被害推定を行う. 史料と直接比較できるのは人的被害のみであるが,2004 インド洋津波で得られた知見(被害関数)を応用することにより,住居被害,地形変化,塩水流入による植生への影響(稲などの農作物へ研究対象を拡大)を評価して,津波が生活環境にもたらしたインパクトを評価し,史実と比較する【越村・高橋】. さらに,被災地域での津波後の歴史的・文化的な遷移を時系列的に調べ(特に,復興できた地域と,できなかった地域の比較),住民生活と沿岸環境の回復過程について定量的に検討する【全員】. 時系列的な外力と諸被害(活動)を整理してヒステリシス図を作成し,回復可能な場合と難しい場合のカタストロフィ遷移を検討する. 最終的な結果は,HP などを通じて,可視化された津波挙動や推定被害の結果を提供する【今村】.

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