東北大学工学部 | 学生員 | ○大窪 慈生 |
東北大学大学院 | 正 員 | 今村 文彦 |
1. はじめに
沖縄などでは津波により珊瑚岩が陸上に移動し,過去の挙動を知る重要な痕跡データとなることが報告されている.野路ら(1993),今村ら(2001)は,津波石移動の数値モデルを提案し,これを沖縄などの津波石に適用してその妥当性を検討している.しかし,津波石の移動前の正確な位置,移動の軌跡や形態は不明である.そこで本研究では,モデル岩塊の移動を伴う水理実験を行い,移動の状況が明らかなモデル岩塊に対して数値モデルを適用し,実際の移動距離の検証を行いながら精度向上を計る.
2. 津波石移動の実験
2.1 水理実験方法及び装置
実験装置は図-1に示すように,ゲートより上流側に水を貯め,ゲートを急開させることで段波を発生させる.水路上に斜面を設置し,一様斜面上を段波が遡上するように設定した.サイズや密度(表-1参照)を変えたモデル岩塊を水路や斜面上に置き,移動距離の記録,移動の状況の撮影を行った.
図-1 実験水路
表-1 使用したモデル岩塊
2.2 実験結果
津波石(モデル)の移動結果を表-2に示す.実験は全ての場合において5回ずつ行った.表中の移動距離は5回の平均値で,初期位置からの距離で示してある.また,No.3の岩塊に対しては,初期状態で流れに向ける面を1.05×3.30cm及び1.05×1.17cmの面とする2通りの実験を行った.
3.数値モデルの改良
3.1重力成分について
津波石の運動方程式には,斜面での重力成分を考慮しなければならないが,ここでは,重力の作用方向を図-2にあるように今村ら(2001)の方法(3点の最も低い方向)を改良し,3点のうちx座標の異なる2点からx方向の勾配を求め,y座標の異なる2点からy方向の勾配を求める方法を提案する.図-2には,水深が与えられた時の今村ら(2001)の方法と本計算法による方法の重力成分の大きさと方向を比較しており,大きな違いがあることがわかる.
3.2 流体力のモデル化について
従来の計算法では,岩塊に働く流体力を,Morison式にならい,抗力と付加質量力からなるとし,各係数は野路ら(1993)により,水理実験で求められたものを用いている. 彼らにより定式化された抗力係数は,一般的な値より大きな値をとっていた.岩塊と流体の相互作用を考慮するため,岩塊が存在するときの岩塊付近の流速を用いて各係数を算出したこと,また,水理実験が岩塊の高さに対し水深が大きくない条件で行われたことが原因だと考えられる.このモデルを用いれば,岩塊が存在するときの岩塊位置の正確な流速を求めなければならず,また,水深が小さい条件でしか適用できないという制限をうけるため,精度のよい計算が行われないと考える.そこで,本研究ではCD=1.05,CM=1.67で一定とし,岩塊がないときの流速を計算に用いるモデルを提案し従来の方法と比較した.
4. 数値モデルの検証
4.1 流れの計算方法と検証結果
数値計算は浅水理論を基礎とし,空間格子間隔は2.5cm,時間格子間隔は0.001s,渦動粘性係数は全領域で100cm2/sで行った.流体の水位,流速,最大遡上高さなども実験値と比較し,おおむね良好な結果を得ている.ただし,戻り流れについては,計算値の方が,斜面からの反射波が到達する時間がやや早く,斜面下方での流速も大きくなっている.その原因として,壁面摩擦,斜面脇からの水の浸透が考えられる.
4.2 改良した津波石移動計算方法と結果
実験値に対する,従来方法と本研究の方法による結果を図-3に比較する.初期位置がA点の場合,本計算法による最大,最終移動距離の結果は共におおむね一致している.一方従来の計算法では最終移動距離はよく一致しているが,最大移動距離は過大評価であり,実験結果と岩塊移動の軌跡が異なっている.移動中に岩塊位置の相対水深が大きくなるため,野路ら(1993)により定式化されたCD・CMは適用できないと考えられる.
一方,初期位置がB点の場合,従来の計算法,本計算法による結果共に戻り流れにより大きく戻されている.また,最大移動距離に着目すると,共に過小評価となっている.段波先端衝突時に作用する揚圧力を考慮していないことが原因として考えられる.また,移動中の岩塊位置の相対水深が小さいため,本計算方のCD・CMが評小である可能性もある.
図-3 岩塊の移動結果
4. まとめ
本計算法を用いれば,岩塊位置の相対水深が大きくなる場合の移動は良好に再現できることがわかった.しかし,水深が小さい場合の精度は低く,水深により各係数が変化するモデルが必要である.参考文献
- 野路正浩・今村文彦・首藤伸夫(1993):津波石移動計算法の開発,海岸工学論文集,第40巻,pp.176-180.
- 今村文彦・吉田 功・Andrew Moore(2001):沖縄県石垣島における1771年明和大津波と津波石移動の数値解析,海岸工学論文集,第48巻,pp.346-350.
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