津波インバージョンにおける観測点の最適配置問題について

 

東北大学大学院 正会員 ○小 池 信

東北大学大学院 正会員  今 村 文


1.はじめに

インバージョンによる解の精度を高めるような観測点の配置計画に対しては,従来理論的な観点からアプローチが試みられてきた.その主なものは,実験計画法によって種々の評価規準が提案されている(Steinberg, D.M. and W.G. Hunter, 1984).しかし,これらの手法をそのまま著者ら(小池・今村,2000)が提案した津波インバージョンにおける観測点の最適配置問題に適用することは簡単ではない.その理由としては,津波インバージョンにおける観測点の最適配置問題は2次元であるし,そもそも津波インバージョンの解となる津波初期波形が観測されたことはないので,解の信頼性を議論することができないということもある.津波という現象は低頻度なものであるので,観測値を用いて解析するにはデータが少ないとも考えられるので,数値シミュレーションによる仮想波源に対する最適配置問題を考えて,その妥当性を検証する方がよいと考えられる.

 そこで,ここでは,数値実験的に検討することにして,観測点をある基準のもとに配置し,それからインバージョンによって求められる推定値の誤差を求めることによって,観測点の最適配置問題について検討することを目的とする.

2.最適観測点配置の数値実験

 ここでは,ケーススタディとして遠地津波の中でも最もわが国に近い台湾から西南諸島にかけての領域を計算領域としてとった.図−1に計算領域と水深を示した.さらに,観測点の配置問題を数値実験的に調べるために,図−1のように7つの観測点を配置した

 今回,インバージョンによって推定する津波初期波形として,プレート境界に沿って図−2,3のような4つの波源を想定した.波源1に対しては,波源の短軸方向に波が放射していく方向に観測点が配置されていることになる.一方,波源2に対しては,波源の長軸方向に波が放射していく方向に観測点が配置されている.波源3は,位置を波源1と同じにして,波源の向きを波源2と同じにしたものである.また,波源4は位置と向きは波源1と同じで大きさだけ小さくしたものである.

 そして,観測点の組み合わせの数があまり多くならないようにするために今回は2つの観測点のみを組み合わせて,そこでの観測データからインバージョンした結果が,もとの波源とどのくらい一致しているかを式(1)のような相関係数を用いて調べた.

                (1)

ここに,:平均操作,:推定された波源の水位,:その平均,:もとの波源の水位,:その平均である.

3.結果と考察

観測点を2つずつ組み合わせていったときの,インバージョンによる波源の推定結果の相関係数を,想定した波源1,2,3,4のそれぞれについて調べたものが表−1である.表のなかで×印のものは,推定ができなかったものを示す.

 全体的に見ると,波源1,3はどの観測点を用いても比較的よく推定できているのに対し,波源2は推定が不可能な場合も多いし,相関係数も悪い.また,波源1と同じ位置にある波源4も推定の精度は悪い.この理由としては,波源の大きさが津波インバージョンの際に用いるwavelet基底の大きさと関係しているため,小さい波源を再現できなかったと考えられる.このため,今後はwavelet基底の大きさについても考慮を加える必要がある.また,波源2は,波源の大きさは波源1,3と同じであるが,推定の精度は悪い.波源の向きは波源3と同じであるので,向きが精度の悪い理由とも思われない.むしろこの場合は,図−1からもわかるように,波源2の位置の水深と波源1,3の位置の水深はかなり違っているので,そのために波源2は推定の精度が悪くなったと考えられる.

4.おわりに

 結局,現段階では想定したすべての波源を推定できるようなインバージョン方法はまだ確立していないため,観測点配置を最適化するところまではいかなかった.今後は,インバージョン方法を基本的に考察し,wavelet基底の大きさ,海底地形および水深の影響などが,どのようにインバージョンの精度と関係あるかを詳しく調べる必要がある.

参考文献

小池信昭・今村文彦(2000)Wavelet変換による津波初期波形の推定とリアルタイム予警報への応用,海岸工学論文集,第47巻,pp.356-360

Steinberg, D.M. and W.G. Hunter (1984): Experimental design: review and comment, Technometrics, Vol.26, No.2, pp.71-97.

                                    表−1 推定した波源の相関係数

観測点の組合せ

波源1

波源2

波源3

波源4

0.62

×

0.72

0.42

0.67

×

0.80

0.48

0.75

0.37

0.78

0.62

0.74

0.30

0.79

0.55

0.70

0.41

0.76

0.45

0.70

0.36

0.79

0.50

0.71

×

0.78

0.52

0.63

×

0.72

0.37

0.66

×

0.73

0.43

0.65

×

0.70

0.40

0.61

×

0.68

0.37

0.65

×

0.76

0.46

0.70

0.36

0.79

0.48

0.71

×

0.74

0.47

0.62

0.33

0.76

0.40

0.69

0.38

0.70

0.49

0.52

0.42

0.62

0.28

0.64

0.49

0.76

0.44

0.60

0.41

0.67

0.35

0.67

0.51

0.76

0.48

0.48

0.39

0.56

0.26

        

図−1 計算領域の水深と観測点の配置 

      図−2 想定した波源と観測点の配置

              図−3 想定した波源