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1. はじめに
遠地津波は近地津波に比べ津波が沿岸に到達するまでの時間は数〜数十時間と長いことから,推定や解析に時間的余裕がある.津波予報においては,地震データからの推定が主であり,その信頼性や精度については不十分であることが多い.近年では衛星を利用したGPS津波計やブイ式津波計が開発されており,発生した津波そのものの情報を得ることが期待されている.そこで本研究は,従来用いられた地震データに加えて,環太平洋に仮想的に設置した津波計で観測されたデータを用いて,津波計の位置の検討や波源の推定を試みることとする.
2. 対象領域
想定断層として図1に示す位置に断層を設定し,津波計はこの断層を取り囲むように仮想的に10個設置した.ただし,波源の位置を正確に推定するためにはその付近の津波計が複数個必要であるため,津波計を単騎で設置するのではなく,2個1組で設置しなければならない.従って合計20個の津波計を仮想的に設置する.なお,想定断層とは石田(2000)によって環太平洋にあらかじめ想定されたものを,津波計を広範囲に設置できるように沖へ移動させたものである.表1に断層パラメータを示す.
3. 波源の推定
3-1 地震データから
地震の相似式から推定した断層パラメータは表2のようになる.ここで海溝付近で発生したM7.0以上の地震の場合,断層の長さは統計的に地震の相似則からはずれる傾向があるため,新たに回帰直線を求め相似式としてこれを用いた.なお,この段階では断層面の選択はできないため,解は2つとなる.
logL = 0.87M - 4.76 (1)
logU = 0.5M - 1.40 (2)
W = L/2 (3)
L:断層の長さ,W:断層の幅,U:食い違い量,M:モーメントマグニチュード
3.2 逆伝播手法(石田・他(1998))から
波向線法を用いて逆伝播を行う.10個の津波計においてそれぞれ津波の第一波の最高水位点,ゼロクロス点に到達する時間の波峰線を描き,交点を求めることで波の源点を求める.図2にその結果を示す.津波計2では,ほぼ断層の長軸方向における端を,津波計6ではほぼ断層の短軸方向の端を押さえていると考えられるが,津波計10では波向線が陸地で止まってしまい,波峰線がうまく描けていない.波源の面的広がりを押さえるために最終的に用いた津波計および波の源点を図3に示す.ここである程度の初期波形における最高水位分布と断層の端が押さえられるため,地震データからでは選択できなかった2つの断層面のうち1つを選択できる.逆伝播から推定される断層パラメータを表3に示す.
3.3 津波波形から
表3の断層パラメータを用いて改めて津波数値計算を行い,これを計算波形とする.一方,想定断層で発生した津波を設置した津波計が捉えた波形を観測波形とする.図4に津波計4での波形を示す.この計算波形と観測波形を比較することより,より確からしい断層パラメータを求める.波形は断層パラメータによって大きく変わるが,最高水位は主に食い違い量,そして第一波の1/4周期は主に断層の幅への影響が大きいと考えられる.そこで計算波形を観測波形に近づけるために,最高水位および1/4周期の比をぞれぞれ表3のUおよびWに乗じる計算を行った.最終的に推定された断層パラメータを表4に示し,このパラメータで計算した最終的な波形を図4に示す.
4 結論
表4から分かるように,断層の長さ,幅および食い違い量については地震の相似式から得られた値(表2)よりも真値に近い値となった.特に食い違い量に関しては良好な結果が得られたことから,津波波形を用いた波源の推定法は有効であると考えられる. 今回の計算では,あらかじめ断層を沖に出したため逆伝播手法によって面的広がりである波源が押さえられたが,今後は陸地の影響で面的広がりが押さえにくい場合も検討していく必要がある.
参考文献
- 石田裕介(2000):リアルタイム津波観測計の予警報システムへの利用,東北大学大学院工学研究科土木工学専攻修士論文
- 石田裕介・他(1998):三陸沖での新しい監視方法による津波情報提供の可能性,海岸工学論文集,第45巻,pp.386-390
図1 断層と設置した津波計の位置
表1 想定断層の断層パラメータ
表2 地震の相似式から推定される断層パラメータ
図2 津波計2,6,10の逆伝播図
図3 想定断層の逆伝播図
表3 地震の相似式から推定される断層パラメータ
図4 観測波形と計算波形および最終的な波形
表4 最終的な断層パラメータ
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