津波数値計算における構造物の抵抗モデル
東北大学大学院工学研究科< | 学生員 | ○油屋 貴子 |
東北大学大学院工学研究科 | 正 員 | 今村 文彦 |
1. はじめに
陸上部での津波の挙動を正しく再現・予測するためには,土地利用や構造物の効果をモデルに取り入れる必要がある.小谷ら1)の粗度係数による方法が一般的に用いられているが,その設定方法は明らかでなく,抵抗モデルに関する手法は確立されていない.特に,構造物は単一で存在するとは限らず,従来提案されている単体の抵抗モデルを適用できるかという疑問が残っている.そこで本研究では,2つの構造物が存在する場合を対象に水理実験を実施し,その結果と,抵抗モデルを入れた数値計算手法(以下,抵抗モデル)と格子サイズを小さくし構造物を地形データとして扱う数値計算手法(以下,地形モデル)による結果を比較検討し,適用性を調べることを目的とする.
2. 水理実験の概要
水理実験は,全長12m,幅0.3mのアクリル製矩形水路を用いて行った.水路には0.1m×0.1m×0.45mの四角柱を2つ0.3mの間隔を置いて固定し,静水深は0.1mに 設定した.実験装置の概略を図−1に示す.水路幅の両端は壁であるが,これは幅方向に20cm間隔の構造物が対称に並んでいることに相当する.実験では,水路端での鉛直造波板を水路の長さ方向に約1m,一定の速度で移動させることにより段波を発生させた.測定項目は,水位,流速,波圧の3項目である.四角柱に作用する全波圧は,各面で測定された波圧を空間積分することによって算定した.また,実験の再現計算のための入射波の入力位置と出力地点を図−1のように設定し,その間の数地点で水位と流速を測定した.
3. 抵抗モデルの設定( CD,CM値の算定)
四角柱の模型A,Bによる抵抗力は,Morison式にならい,次の式(1)のように表現できるものとした.
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(1) ここで,fA,fB:模型A,Bに作用する波力,CM:付加質量係数,CD:抵抗係数,ρ:密度,A:四角柱の断面積,k:四角柱の幅(=0.1m),hA,hB:模型A,Bでの全水深,uA,uB:模型A,Bでの流速である.非定常流下での ,CM,CDの算定は難しく,工夫が必要である.ここでは,図−2に示すように,波動を非定常流と準定常流の部分に分け,まず後者に対しては,付加質量項を0として抵抗係数 CDを算定する.その際,波力のピーク直後の加速度が小さく,CD のばらつきの少ない領域での平均をとり,CD=1.58 とした.次に非定常流の部分で,得られた CD値を(1)式に代入して を算定する.その結果,波力のピーク付近での平均値をとり,CM=1.66 が得られた.このとき,Morison式による模型A,Bそれぞれの波力の計算値を実験値と比較したものが図−3である.CD,CM値を一定とした抵抗モデルであるが,比較的良好な一致を示していると言える.波力の最大値を比較すると模型Aではよく一致しているが,模型Bでは実験値の方が小さい値をとっている.これは手前にある模型Aの影響を受けているためであり,この影響をどう扱うかが今後の課題である.ここで得られた係数を用いた抵抗モデルにより,水理実験値との比較を行う.
4. 実験値と計算値との比較
4.1 抵抗モデルによる数値計算
構造物のスケールに対して格子サイズが大きい場合は,従来の津波の数値計算に用いられる運動方程式に(1)式を付加する.また連続の式は,構造物の占有面積率を考慮して次の式(2)のように表す.
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(2) ここで,η:水位,A0:構造物の占有面積率, M,N: x,y方向の流量である.ここでは,格子サイズを0.3mと0.5mの2ケースとした計算を行い,水位を実験値と比較した結果が図−4aである.0.5mの場合は最大値は一致しているが,どちらのケースにおいてもピークに遅れが生じている.
4.2 地形モデルによる数値計算
構造物のスケールよりも格子サイズが小さい場合は,地形データとして構造物の高さを入力することにより,従来モデルを用いた流れの計算が可能であると考えられる.ここでは,格子サイズとして,0.1m, 0.05m, 0.025mの3種類を用いた数値計算を実施した.図−4bに示すように水位を実験値と比較すると,格子サイズが大きくなるにつれて波の立ち上がりの時間が遅くなっており,最大値も過小評価となっている.構造物の存在により,増加した波高を正確に再現できないが,波形(特に立ち上がり)は良好に再現できていると思われる.
5. おわりに
今回は簡単な模型実験を行い,抵抗モデルと地形モデルの適用性を調べた.抵抗モデルによれば水位の最高値はほぼ再現できるものの波形に大きな差が生じた.一方,地形モデルは,波形の再現性は高いが最高水位(波高)を過小評価していた.構造物に働く波力を推定する際には,波高だけでなく波形も重要であり,両モデルとも改良する必要があることが示された.
参考文献
図−1 水理実験の概要
図−2 非定常領域と準定常領域
図−3 模型に作用する波力
図−4a 実験値と計算値(抵抗モデル)の比較
図−4b 実験値と計算値(地形モデル)の比較
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