石垣島における明和大津波の数値解析

東北大学大学院工学研究科

 学生員

吉田 功

東北大学大学院工学研究科

 正 員

  今村 文彦

東北大学大学院工学研究科

客員研究員

Andrew Moore


1.  はじめに

明和8年3月10日(1771年4月24日)に発生した八重山地震津波により,沖縄県石垣 島では,300個以上の珊瑚岩が津波により移動したと言われている.津波石の表面に はテーブル珊瑚等の海中生物の跡が残っていることから,これら津波石は,海岸付近 の珊瑚礁が津波の力により打ち砕かれ,陸上まで打ち上げられたものであると考えら れている.この様な津波石の挙動は当時の津波の来襲の様子を示す重要な情報である .この地震の規模はマグニチュード7.4と推定され,当時の津波の最大遡上高として 石垣島では85.4mに達し,離島も合わせると,死者・行方不明者は9000人以上,死亡 率30%以上に及んだという記録がある.しかしながら,津波の発生や実体などは未だ に未知な点が多い.本研究では,報告されている明和津波の遡上高に重点を置き,数 値解析により,地震の規模,断層の位置,パラメーターの検討を行う.

2.  津波石からの推定遡上高

 津波が来襲した島々には,津波石が海岸から内陸深くまで多数分布している. 津波の遡上高について今村(1938)は,単位が一桁間違って記録されたと否定的見解 を示した.これに対し牧野(1981)は,古文書と津波石の分布から肯定的見解を示し ,この津波の大きさを強調した.一方,加藤(1983)は,石垣島の津波石のうち,宮 良湾内に点在する岩塊を除いて,多くのものは周辺の更新世隆起石灰岩からの転石で あると考えている.このように明和大津波についてはいくつかの論争があり,その実 体については十分に解明されたとはいえない.

本研究では,信頼性が高いと思われる河名ら(1987)が痕跡等から推定した最大 遡上高(図2)を比較対象にし,しかも図中点線にあるよ うに大きく3つの地域に分けた津波高さの分布を参考とする.

3. 水深データ作成と断層

 海上保安庁水路部の水深データを用いて,500mメッシュの水深データを作成し た.断層パラメーターは,マグニチュード7.4を参考にして,地震の相似則より表1のように定めることができる.断層の位置については図1のようにいくつかのパターンを想定した.                     

4. 計算方法及び結果

 今回の伝播計算では,線形長波波動方程式を用い, 境界条件は岸で完全反射(遡上なし)で,海では完全透過とした.よって,浅水域や 陸上の挙動は議論できない.まず,南北に3つの断層(A1,B,C1)を想定した.この結 果を図3に示す.図2と比較する と,約10倍の違いがある.また,それぞれの地域においての比較を見てみると,図3の計算結果では宮古島がもっとも低く,西表島がほかの島 々に比べ高くなっており図2の分布とは合わない.ただし ,A1,B,C1の比較をみると,あまり違いがみられないが,若干A1が石垣島において高 い遡上高をだしているので,南北の位置の推定においてAがもっとも近いと思われる .

次に,東西に4つの断層(A1,A2,A3,A4)を想定した.この結果を図4に示す.これより,断層が東から西にずれるに従って,石垣島,波照間 島などで低くなり,逆に多良間島,宮古島で高くなっていく.参考のためにCの位置 でも東西に想定したもの(図5)を出してみたが,図4と同じような結果がでており,石垣島に対して左右の領域 で一致しない.

このような結果からはこの明和津波は,マグニチュード7.4の断層のずれからは想 定できない津波であることがわかる.最後に上記で述べた断層長さをA1とA3で66kmか ら120kmに換えて計算したものを図6に示す.この図から 66kmの時よりも多少空間分布がよくなったことがわかる.さらにA1とA3(120km)を 比較するとA3のほうが痕跡高に近いことがわかる.

5.  終わりに

 以上の検討により,報告されている痕跡高さの分布を説明するには,比較的浅 い領域(2000m)で,地震マグニチュードより規模の大きい断層長さを有しているこ とが示唆された.ただし定量的には値が大きく,ごく浅水域や陸上部を取り入れた検 討が必要である.

参考文献

   ^牧野 清(1968): 八重山の明和大津波,著者出版,462p.

    _加藤 祐三(1986): 八重山地震津波(1771)の津波の遡上高.歴史地震,2 ,pp.133-139.

    `中田 高・河名 俊男(1986):明和8年(1771)の地震津波について.歴 史地震,2,pp.141-147.

    a河名 俊男・中田 高(1987):明和津波と海底地殻変動.歴史地震,3, pp.181-194.

     

図1. 仮定した断層位置

 

表1. 断層パラメーター 

L(断層長さ)

W(断層幅)

TH(走向)

DL(傾斜)

RD(滑り角)

D(食い違い量)

(km)

(km)

(゜)

(゜)

(゜)

(m)

66

33

250〜260

70

90

2

図2. 推定最大遡上高(m)

 図3. 断層A,B,Cでの計算波高(m) 

図4. 断層A1,A2,A3,A4での計算波高(m)

図5. 断層C1,C2,C3での計算波高(m)

図6. 断層長さ120kmの場合

  


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