斜面上における津波の多重反射

東北大学大学院工学研究科  学生員 越村 俊一
東北大学大学院工学研究科  正 員  今村 文彦
岩手県立大学総合政策学部  正 員  首藤 伸夫


1. はじめに

 沿岸境界において発生した津波は,捕捉現象によりしばしば予想外の波高増幅をもたらす. 一般に,沿岸境界における津波の捕捉現象は,藤間ら(1999)3の研究に代表されるように, 半無限一様勾配斜面上において励起されるエッジ波の理論に基づき議論されてきた.しかし,遠地津波の様な 外洋からの入射波を想定した場合,半無限斜面を仮定した理論はその適用性に問題がある.本研究では,筆者 らが導出した有限な一様勾配斜面上における津波伝播の理論解1,2 に基づき,斜面上において形成される多重反射波の増幅特性を調べ,沖側から入射した津波の捕捉現象に関する基礎的な知見を得ること を目的とする.

2. 理論解

 図−1に示す岸沖方向に有限な一様勾配斜面を考える.基礎方程式は線形長波理論である. 沖側水平床からの入射波(入射角)に対する斜面上の解は, 汀線に鉛直壁を有さない場合,式(1)で表される.

(1)

ここで,式(2)で表される.

(2)

は入射波のフーリエ成分,は角周波数, は周波数成分に対応する水平床上の入射波の波長, は沿岸方向の波数である.関数 は 合流型超幾何関数, は複素振幅である.
 入射波は,正規分布形で表される一山の波形と,その重ね合わせで表される一山一谷および一谷一山の 波形を(斜面端部)において入射角で与えた. 波形はそれぞれ式(3),(4),(5)で定義する.

(3)
(4)
(5)

wは, とし,一山の波形の水平床上における空間スケール(無次元) を と定義する.図−2

とした場合のt=0における空間波形の例を示す.入射波は式(3)の一山入射波とし, その空間スケールは,

とした.斜面に入射した津波は付近において汀線に到達し, 反射波()が沖側に向かっている.しかし,汀線からの反射波の一部は外洋に抜けきらず, 斜面端部において再び反射し,汀線に向かう(). すなわち,斜面上において多重反射波が形成されていることが分かる.

3. 第一波打ち上げ高の変化特性

 図−3は汀線( )における津波第一波の打ち上げ高 (入射波波高で無次元化してある)を様々な入射波の空間スケール()と 入射角()に対してプロットしたものである. 打ち上げ高はの増加に伴い減少する.また,初動が押しであれば, 一山入射の場合と一山一谷入射の場合において打ち上げ高はほぼ等しくなる.一方,初動が引きの一谷一山入射の場合には, 後に続く押し波との相互作用により先のケースに対して約20%ほど波高が高くなる.津波が汀線にほぼ平行な角度で入射した場合 においても(),特に入射波の空間スケールが小さい場合には打ち上げ高は 入射波高の約5倍程度に増幅される.

4. 斜面上の津波の多重反射

 図−4は多重反射波の打ち上げ高 および第一波打ち上げ高に対する比

を入射波の空間スケール()に対してプロットしたものである. 入射角はとした.図の実線が初動の到達以後最初に来襲する 多重反射波の打ち上げ高を,点線がその次に来襲する多重反射波の 打ち上げ高を示している(スケールは左軸). また,を●で, を○で示してある(スケールは右軸).多重反射波の波高は小さいものの, は一山一谷・一谷一山入射波の場合ほぼ40%であり,汀線で反射した津波 の一部が外洋に放射されずに捕捉されていることが分かる.
 以上の結果から,沖側から汀線に平行に近い角度で入射した津波により多重反射波が励起され, 入射波形により差はあるものの,第一波の打ち上げ高の約40%の波高を伴い来襲することが分かった. 少なくとも第二波目の多重反射波の来襲までは注意が必要であることが分かった.

参考文献

  1. Koshimura, S., Imamura, F. and Shuto, N. : Propagation of Obliquely Incident Tsunamis on a Slope Part I : Amplification of Tsunamis on a Continental Slope, CEJ, Vol.41, No.2, JSCE, pp.151--164, 1999.
  2. 越村俊一・今村文彦・首藤伸夫:斜面上を伝播する津波の挙動特性とその数値解析,土木学会東北支部講演概要集,1999.
  3. 藤間功司・正村憲史・堂園良一・重村利幸・後藤智明:陸棚で発生した津波に関する基礎的研究, 土木学会論文集,No.621/II--47,pp.141--151,1999.

図−1 斜面モデルと問題の概略

図−2 有限な斜面に斜め入射した津波の空間波形

図−3 第一波の打ち上げ高の変化特性(左:一山入射波,中:一山一谷入射波,右:一谷一山入射波)

図−4 入射角が80度の場合の多重反射波の打ち上げ高(左:一山入射波,中:一山一谷入射波,右:一谷一山入射波)


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