研究目的

専門分野の融合による学際研究へ

  横断的な研究内容    
災害史学 地質学・堆積学 地震学・津波工学 防災学・減災科学
【1】 災害史,地形・環境復元 発生・影響の記述(史実)再整理 津波堆積物分布,津波石の移動実態(痕跡史),地形の再現 発生機構・伝播及び水理特性の評価 当時の災害基本事項の整理
【2】 ハザード評価 外力の記述,災害の復旧・復興,関連資料の収集 津波堆積物・津波石からの波源制約条件・水理特性推定
沿岸インパクト評価
伝播・遡上解析
浸水深・流速評価
外力推定
Fragility関数,被害推定
基本被害の推定,複合被害推定
【3】 被害インパクト・回復過程評価 被害実態・地域インパクト
復旧・復興の記述
ヒステリシス過程
カタストロフィ遷移
地域への影響評価
植生や土地利用による減災
総合防災対策・レジリエンスの向上

災害史の再検討と当時の環境・地形の再現

各史料を整理・検討し,災害史学的に推定される津波の挙動と影響を明らかにする. 一方,地形など当時の環境(計算諸条件)を地形学・堆積学的に復元し,数値解析の入力データとして整備する.

痕跡史からのハザード情報の摘出と低頻度ハザード評価

対象沿岸域での津波堆積物および津波石の分布データの現地収集を行い,その分布から入射波条件,水理特性,津波浸水域などを推定する. こうした波源についての制約条件をインバージョン法に取り入れ,津波発生メカニズムを考慮して波源モデルを推定する. 次に,フォワード問題として,沿岸域での詳細な津波挙動や影響を解析し,ハザード評価を行う. 得られた結果を史実と比較することにより,結果の妥当性の検討を行う.

総合被害推定と回復力の評価

ハザード情報に関する詳細な計算結果に加え,インド洋大津波で得られた人的被害・建物・環境被害に関する被害関数を適用し,当時および将来の被害推定と環境への影響評価を行う. その結果を史実と対比し,被害実態や回復力について議論する.

期待される成果

我々が2004 年インド洋大津波を対象に得た知見(津波堆積物,津波石,植生への影響,被害関数),開発・改良した数値モデル(土砂・巨礫移動モデル)により,巨大津波による被害の推定精度は格段に向上している. 本研究は,これらを国内のミレニアム津波ハザードに適用し,災害史・痕跡史から歴史・先史時代の津波ハザードを評価する手法を学際的かつ融合的に確立しようとするものであり,極めて独創的である. そして,歴史記録の乏しい海外においてもミレニアム津波ハザードの評価が行えるようになるという点で,国際的な影響力も大きい. 一方,巨大津波災害は,人間の生活基盤となる沿岸環境にも甚大な影響を及ぼす. そして,被災後の復旧・復興活動,さらには自然修復によって,沿岸環境も安定した状況に回復するが,これが津波前の状況に戻るとは限らず,災害規模が大きいほど不可逆的なプロセスになる可能性がある(図4参照). このようなヒステリシスの状態変化を定量的に検討した研究はこれまでに無い. 本研究により,ミレニアム津波ハザードにおけるカタストロフィ遷移や,減災としてのレジリエンス(回復力)のあり方を議論できると期待される.

災害ヒステリシス
図4:災害ヒステリシス
ミレニアム津波のトップページに戻る